こちらのブログでは当院にご来院された症例を解説しております。
今回の症例は、高校生の男の子で学校前に毎日続く腹痛・下痢の1症例です。
東洋医学的に解説しておりますので、最後までお読みいただけたら幸いです。
毎日続く腹痛・下痢の1症例
初診日X年9月17日
16歳男性 熊本市在住
◾️主訴および現病歴
9月初旬より後期が始まり、初めの4〜5日間は問題なく登校できていたが、6日目の朝に突発的な下腹部痛を訴え、その後3〜4回の水様性下痢を呈した。残便感は認められず、症状は一時的に軽快したものの、登校は中止した。
以降、軟便から水様便を1日1〜3回排出する日が続き、下腹部痛は昼夜問わず間欠的に出現。内科を受診し、桂枝加芍薬湯を処方されるも、下痢の症状は2日間のみ軽快し、その後再発。さらに胃痛を訴えたため、新たな薬剤(処方内容不明)に変更されたが、症状は持続している。
大便検査および各種検査において異常所見は認められず、現在は下腹部痛よりも胃痛が主症状となり、下痢も毎日継続している。
<増悪因子>
朝(TOP)、食事中、食後(食事内容による差なし)
<緩解因子>
排便後、仰臥位で横になること
<不変因子>
入浴、天候、季節
<不明因子>
運動
◾️既往歴
幼少期:大阪市にて出生。風邪を引きやすく、サラサラとした鼻水が頻繁にみられた。
3歳時:小児喘息で入院。ステロイド吸入器を使用。アトピー性皮膚炎(肘窩、膝窩、顔全体?)発症。小学高学年まで症状が持続。
小学5年時:斜視(左右不明)の手術を受ける。術後は特に問題なし。
中学1年〜:視力が徐々に低下し、現在の矯正視力は左右ともに0.1。
母親の話では、転校前までは元気で学校生活を楽しんでいたとのこと。
中学3年時:父親の転勤に伴い、大阪から熊本へ転居。この頃から時折下腹部痛を訴えるようになるが、排便習慣に大きな異常はなし。また、頭痛も時折みられるが、部位や頻度については不明。
高校時:パソコン部に所属し、本人は日常生活を楽しんでいると述べるが、母親いわく中学までは楽しそうに通学していたが、熊本に引っ越してきて以降はあまり楽しそうではない印象を受けている。
X年9月:主訴発症。
◾️その他症状
頭が痛い
鼻詰まり
鼻炎・花粉症
頬裏の口内炎ができやすい
非回転性のめまい
悩み・心配事・不安がある
眠れない
天候により体調を崩す
よく下痢になる。
乗り物酔いしやすい
胃が痛い
体がかゆい
冷え症である
学校からの帰宅後の夕方に疲れを感じやすい
◾️東洋医学的な診察
<顔面気色診>
心肝の部位:青白
<脈診>
一息三至半
緩滑脈
脈幅:+
脈力:+
重按:+
<舌診>
舌背:紅色、舌尖紅刺
舌苔:白薄
舌腹;紅色
<腹診>
心下、脾募(左右)、臍周に緊張あり
<背中>
左肝兪:虚中実
右肝兪:実
左肝兪一行
右脾兪:虚
手足のツボ:肝や脾の臓に関わるツボに反応あり
◾️弁証(東洋医学的な診断)
肝脾不和(かんぴふわ)
人はストレスなどの外的要因が加わると、防御反応として体が緊張状態になります。この防御反応を、東洋医学では「肝」の働きと捉えます。肝の「気」の滞りが腸に影響を及ぼすことで、今回のような症状が現れることがあります。
多くの方が病院で「ストレスが原因ですね」と言われることがあるでしょう。しかし、ストレスによる体への影響は人それぞれ異なり、その影響がどこに現れるかは異なります。ストレスが上に向かえば咳や呼吸器の不調、中部に影響すれば腹痛、下に影響すれば下痢といった具合に、症状は千差万別です。
◾️治療経過
◾️初診
打鍼治療
※お腹の臍の下に棒の刺さない鍼を当て、肋骨周囲を散らす刺さない鍼(打鍼)
◾️2診目(3日後に来院)
打鍼治療
※お腹の臍の下に棒の刺さない鍼を当て、肋骨周囲を散らす刺さない鍼(打鍼)
初診後、軽い身体のだるさと眠気が当日のみあり。
下腹部痛・胃痛は、2日間なかった。2診目の翌朝腹痛あり。下痢はなし。
◾️3診目
左手の小腸のツボに鍼治療。
2番鍼15分置鍼。
前回治療後、だるさ・眠気は1日のみあり。
鍼後当日は腹痛ないが2日目に腹痛あり。
3日目は症状なし。
以降通院がなかったので、3週間後にお母様に症状を伺ったところ、腹痛や下痢は全く出ていないとのことでした。
■まとめ
初診時の所見から、ストレス性の腹痛および下痢であることは明らかでしたが、患者の体質が非常に敏感であると判断し、初回および2回目の治療は刺鍼せず、刺さない鍼治療(接触鍼)を実施しました。
治療後、一時的に症状は改善しましたが、数日後には腹痛や下痢が再発したり寛解したりを繰り返す状態が続きました。そのため、患者本人の了承を得た上で、刺鍼治療に変更したところ、以降症状は完全に消失しました。
早期に症状が治癒し、また発症から長い期間が経過していないことから、東洋医学的には「気の停滞」が中心の病が浅い病態であったと考えられます。このような症例は多く見受けられますが、薬物治療で速やかに改善しない場合、鍼治療を選択肢の一つとして検討することも有用です。
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