
まず、機能性ディスペプシアがどういう病気なのか?
先に西洋医学的に解説します。
その後、東洋医学的に解説していきます。
目次
○西洋医学
○東洋医学
西洋医学に見てみましょう。
1,機能性ディスペプシアとは?
まず、日本消化器病学会ガイドラインによると、
症状の原因となる器質的、全身性、代謝性疾患がないのにもかかわらず、
慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患と記載されています。
消化管の機能的疾患(機能性胃腸障害)のなかで、
上部消化管の機能的疾患の代表が、機能性ディスペプシア(FD)です。
下部消化管の機能的疾患の代表が、過敏性腸症候群(IBS)です。
消化性潰瘍などの器質的疾患が上部内視鏡検査などで確認されず、食後のもたれ感や膨満感、
心窩部痛や心窩部の灼熱感など、上部消化管機能異常を機能性ディスペプシア(FD)と呼びます。
2,主な症状は?

以下の4つの症状が多いとされています。 人によっては、心窩部の灼熱感、悪心、嘔吐、呑酸などその他の胃腸症状を伴う方もいるでしょう。 多い症状
①心窩部痛/胃痛
②早期膨満感
③食後の膨満感
④胸やけ、上腹部不快感
3,原因は?

1.胃・十二指腸運動が障害された場合
2.胃・十二指腸の知覚過敏が生じている場合
3.心理的要因がある場合
4.胃酸が原因となる場合
5.ピロリ感染が原因となる場合
6.遺伝的要因
7.サルモネラ感染など感染性胃腸炎にかかった人
8.アルコール、喫煙、不眠などの生活習慣の乱れ
9.胃の形態
1つだけの原因で機能性ディスペプシアになる訳ではなく、色々な要素が複雑に絡み合って、
症状が起きてしまうと考えられています。
4,主な治療法と日常生活管理の実際

慢性的に症状が続き、苦痛のため、患者さんの生活の質(QOL)は障害されています。
そのため、「異常がない」「心因性」「精神的」といった患者さんへの言葉や説明は禁忌です。
ご家族様にこの症状がある方は、心理的な言葉の投げかけは良く有りませんね。
症状が長期に及んだ結果、心理面にも影響が及びます。(うつ、不安)
さらに、うつ状態の部分症状として機能性ディスペプシアの症状が出現することも多いと言われています。
薬物療法としては、消化管運動促進薬、酸分泌抑制薬、抗不安薬、抗うつ薬、漢方(半夏寫心湯、六君子湯)などが使われます。
心身両面からのアプローチが重要になります。
5,病気を予防するための方策
食生活を含めた不規則な生活、ストレスや過労に陥りやすい生活習慣やライフスタイルを改善しないといけません。
症状が出現したらできるだけ早く専門医を受診し、検査を受け、不安の解消や上記の薬物の服用により、症状を慢性化させないことを心がけます。
東洋医学的に考えてみましょう。

まず、そもそも機能性ディスペプシアというのは、西洋医学の診断名です。
東洋医学では、患者さんが訴えている症状を中心に東洋医学的診断名を考え、治療方針を決めていくことになります。
このページ上部に記載の
西洋医学的な機能性ディスペプシアの説明で、以下の4つの症状を取り上げました。
①心窩部痛/胃痛
②早期膨満感
③食後の膨満感
④胸やけ、上腹部不快感
この4つの症状を見ていきましょう。
①心窩部痛/胃痛 (東洋医学)
この心窩部痛と胃痛は、東洋医学では胃脘痛というものになります。
この症状のメカニズムは、以下の4つの分類に分けられます。
→胃脘痛の分類
①脾胃虚寒(ひいきょかん)
脾胃虚寒の胃痛は、気虚(身体の気が不足している)の体質あるいは慢性病による消耗などで、胃腸の温める作用が弱まり、身体の内側に冷えが生じます。胃が温められないために、胃が痛みます。
特徴(心窩部の持続性の痛み、食欲不振、水様便、空腹時に痛みが増悪し、食後に軽減する)
②寒邪犯胃(かんじゃはんい)
寒邪犯胃の胃痛は、寒い環境によって身体が冷えたり、生ものや冷たいものを多量に摂取したことにより、冷えが身体の深くまで入り込み、胃腸を侵してしまします。特徴は、突然に生じる絞めつけられるような強い痛みです。
特徴(強い上腹部痛・温めると軽減する・痛む時に寒気を伴う・唾やよだれが多い・熱い飲み物を好む)
③肝火犯胃(かんかはんい)
肝火犯胃の胃痛は、情緒の抑うつによって肝の臓に火がつき、辛いまたは味の濃い食べ物によって胃腸に熱がこもり、気血を失調させてしまいます。
特徴(急性の激しい痛み、水を飲みたがる、心窩部の強い灼熱性の痛み・寒冷を好み温暖を嫌う、胸焼け、呑酸、口が乾き、甚だしいときは苦い液の嘔吐や吐血や血便・イライラしやすく怒りっぽい)
④胃陰虚(いいんきょ)
胃陰虚の胃痛は、慢性の胃病により、身体の陰血が消耗・熱性病による水分の消耗によって、胃が濡養されずに起こります。
特徴(慢性の胃の鈍痛、口が乾くが飲みたくはない・手のひらや足の裏がほてる)
⑤肝気鬱結(かんきうっけつ)
肝気鬱結の胃痛は、感情の変化で肝気が鬱結し、身体をほぐすような伸びやかになる作用が不十分となり、常に身体が緊張しているために、胃腸の食べ物を下に降ろす作用が失調し、生じます。
特徴(痛みに脹った感じを伴う・痛む部位は固定的ではない・肋骨周囲がはる・げっぷなどの気の停滞症状)
⑥血瘀(けつお)
血瘀の胃痛は、気の停滞が持続して血瘀(血がドロドロ)になり、胃痛が慢性化して、胃を栄様する血液が常にドロドロする状態(瘀血)になり、生じます。
特徴(固定性の刺すような鋭い痛み・吐血)
⑦食滞(しょくたい)
食滞の胃痛は、シンプルに暴飲暴食によって食べ物が胃腸で停滞するために起こります。
特徴(暴飲暴食の既往がある・胃部がはって痛む・食べたくない・腐臭や酸っぱい臭いのげっぷ)
この心窩部痛/胃痛という症状だけでも、7つの病理(病気のメカニズム)があります。
患者さんの症状から、ある程度、病気のメカニズムを絞り込むことができます。
②早期膨満感/③食後の膨満感 (東洋医学)
→こちら2つの症状は、東洋医学では腹満(ふくまん)といいます。
腹満とは、腹が膨満した感じがあり、外見的には膨満を認めないものを言います。
→腹満の分類
①寒湿(かんしつ)
寒湿の腹満は、寒邪が直接胃腸にくるもの(寒邪直中)、湿気の多い環境での生活・冷たい飲食物の摂取などで、寒湿の邪が胃腸を障害し、胃腸の上下の気のバランスが失調するために発症します。
特徴(腹満感があり押さえても軽減しない・食欲不振・悪心・泥状便〜水様便・腹痛・口が渇くが飲みたくない)
②脾胃虚寒(ひいきょかん)
脾胃虚弱のものが生冷物や脂っこいもの甘いものを過食したり寒涼の薬物を過用するか、慢性疾患で胃腸が弱り、胃腸を暖める作用が不足し、相対的に冷えてしまい消化吸収、運搬する作用が不足するために発症します。
特徴(間歇的で軽重が変化する腹満感・温めたり圧すると気持ちがいい・熱い飲食物を摂取すると腹満感が軽減する・元気がない・無力感・内臓下垂・食欲不振)
③湿熱(しつねつ)
湿熱の腹満は、湿熱の邪の感受・脂っこいものや辛いものの嗜好・酒癖などで、湿気と熱が胃腸を阻害したために発生します。
特徴(腹満感に脹った感じを伴い、上腹部のつかえ・悪心・嘔吐・口渇して多くは飲まない・泥状便・ベロの苔が黄色でジトッとしている)
④食滞(しょくたい)
食滞の腹満は、暴飲暴食などで胃腸に食物が停滞し、胃腸の運搬機能を失調したために発生します。
特徴(腹満感に脹った痛みを伴い、胃気が上に上がり、腐臭のあるげっぷ・呑酸・食臭を嫌うなどが生じ、脾胃が消化吸収しないので腐卵のような下痢が出る)
⑤陽明熱結(ようめいねつけつ)
外感熱病(風邪症状)の経過で奥深くまで邪が侵襲し、それが胃腸の乾燥+熱を助長し、胃腸を阻滞したために発生する。
特徴(腹全体の腹満感があり硬く、脹って痛んだり、臍周囲が痛み、必ず便秘を伴う)
④胸やけ、上腹部不快感(東洋医学)
→こちらは、東洋医学では嘈雑(そうざつ)と言います。
嘈雑(そうざつ)は、上腹部不快感のことで、「胸焼け」なども含まれます。
臨床では、そうざつは胃腸の病といわれ、
「げっぷ」「呑酸」「悪心」「心窩部のつかえ」「胃の痛み」「えずき」などの症状と一緒に伴うことが多いとされています。
嘈雑(そうざつ)の分類
傷食(しょうしょく)
傷寒の嘈雑は、暴飲暴食などの飲食の不摂生により、胃内に食滞が生じ、胃の下に降ろす作用が障害されて発症します。
特徴(飲食不摂生の既往が有り、上腹部が脹る・吐き気・食臭を嫌うなどの症状があり、吐出すると症状が軽減する)
胃熱(いねつ)
胃熱の嘈雑は、辛い食べ物・脂っこいものの嗜好や酒癖などで胃中に熱が鬱したり、外から入る天候などの熱邪が胃に侵入することにより、胃が消化物を降ろすことができなくなり発生する。
特徴(胃部不快感に呑酸・胃部の灼熱感・疼痛を伴い、舌の苔(コケ)が黄色になるなどの熱の所見が出る)
胃寒(いかん)
胃寒の嘈雑は、寒冷の環境・生ものや冷たいものの摂取などによって生じ、基本に脾胃気虚があることが多い(胃腸の弱り)
特徴(胃部の不快感とともに、口内にツバやヨダレが湧く・上腹部痛・温めると軽減する・舌の苔の潤いがきつい)
肝胃不和(かんいふわ)
イライラするなどの感情の変化によって、肝の臓の気が胃腸の降ろす機能を妨げてしまう。
特徴は、上腹部不快感とともに、胸苦しい・胸痛・口が苦い・悪心)
現代人に特に多いもの
臨床で多く見られるもの(東洋医学)
これまでの臨床経験でも、現代人には、やはり「心」「肝」の臓腑がおかしくなり、胃腸の機能に異常が出る人が多いように思います。
これは、いわゆる身体がストレスを抱えているということです。
問診をしても「私はストレスを感じてません」という人もいます。
しかし、身体をみれば肌のキメが細かく、舌の先はブツブツの赤いものがあり、お腹、背中、手足のツボなどを見ても、ストレスに関わるツボに反応が出ているような敏感な方が多いです。
心などの感情や精神にストレスを感じていなくても、身体が感じてる。
東洋医学では「肝」の臓腑がこういった類になりますが、
肝木といって、木が枝葉の先まで伸びやかに栄養分が行き渡り、葉っぱが生えるように、人の体も伸びやかにならないといけない。肝がおかしくなると、常に身体が緊張して滞ってしまいます。それが各臓腑に影響を与えてしまいます。
患者さんそれぞれの発症ストーリーによっても勿論違いますし、身体をみて総合的に判断するのが東洋医学の基本となります。
○オススメの養生

毎日、自然溢れる環境でのお散歩、カフェインをやめる
この2つをオススメします。