不正出血が止まらない女性の1症例
熊本市で東洋医学専門の鍼灸治療を行う当院では、内科的な不調や自律神経の乱れなど、原因がはっきりしない症状にも対応しています。 このページでは、実際に来院された方の症例と、その診察・施術の流れをご紹介しています。同じようなお悩みをお持ちの方の参考になれば幸いです。
初診日:X年4月29日

患者さん情報
40代女性 専業主婦
20代に2人、30代に1人出産経験がある。
服用中のお薬
止血剤(薬名不明)
お悩みの症状
不正出血
1、2週間前に月経が終わり、数日ほど経過した頃から不正出血(少量・鮮紅色・サラサラ)がだらだらと出始める。
発症2日後に病院へ行き、内診と子宮がん検診を受けると、
「卵巣に血が溜まっていて、5cmほど腫れている」と言われる。
特に処方はなく、3ヶ月後に戻ってれば大丈夫とのことで、様子を見る。
当院の初診前日も出血は続いていたため、止血剤・ホルモン剤を処方してもらうが、昨夜から出血量は逆に増えている。出血の特徴は変わらない。
元々、鍼治療に興味があったため来院された。

既往歴〜現病歴
幼少期
小児喘息を発症。小学2年生まで続く。
小学〜大学
12歳初潮。月経(痛経なし・その他不明)
学生時代、部活動は入っていなかったが、体育の授業のマラソンなどにもついていける体力はあった。
卒業後
栄養士として勤務する。調理や事務関係の仕事を行なっていた。
痛経なし、血塊なし、出血量普通。
26歳
結婚
27歳
妊娠中は、半年すぎても悪阻がきつく、入院することもあった。
第一子を安産で出産する。夜はほとんど毎日寝てくれなく、夜中でも車でドライブすることがあり、睡眠の不足があった。
産後における体質の変化は特にない。
以降、育児期間は、発散のためか暴食することが増える。
29歳
第二子出産。同じく、悪阻がきつく入院することもあった。
30歳
第三子出産。悪阻はきつかったが、上2人子供がいるため、入院はせず、我慢していた。
この頃から、37度台が平熱になる。体調は良く、他の症状はなし。月経も同上。
37歳
国家資格の管理栄養士の資格を取得し、勤務する。
勤務以降、多少のストレスを感じるようになるが、充実していた。
この頃から、首肩こり・頭痛・目の疲れ・乾燥・痒みを感じるようになる。
40代
41歳で甲状腺がんが見つかる。手術を行い、以降経過良好。
肉体的に疲れやすくなってきたため、今年1月で退職する。
今年4月
月経後、主訴発症。
その他の症状
頭が痛い
首・肩・背中がこる
アレルギーがある
あくびが出る
口内炎がある
目の症状(疲れ・感想・痒み・光が眩しい)
心配事がある
冷え症がある
むくみがある
出血傾向がある
患者さんの体表観察情報

顔面気色診
神:栄
形:中
色:心肝青白
腠理:密 膏沢:有り

背候診
右督兪実・右膈兪実・右肝 兪実・左胆兪虚中実・左腎兪虚・左膀胱兪虚

舌診
舌色:淡紅色
舌苔:白薄苔
舌腹:紅色
舌尖紅刺・胖嫩

腹診
以下に硬い邪あり
心下
脾募
臍周(力なし)

脈診
一息三至半 緩滑枯脈
脈幅+
脈力+
重按右±左ー 左関上枯
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経穴診
左太白虚・右内関実・左公孫虚中実・左照海虚など
東洋医学的な診断名
腎虚(陰>陽)
治療経過
<1診目>
左照海(足のツボ)に1本鍼・・15分
症状が発症して間もない+鍼後の反応がとてもよかったため、「これでもし不正出血が止まらなかったら、来週もう一回来てください」と伝える。
<2診目>2ヶ月後に来院。
前回治療後、だるさ眠気はなし。
治療後4日後から不正出血が止まり、以降、不正出血はでていないとのこと。
左照海(足のツボ)に1本鍼・・20分
<不正出血の中医学的解説>
不正出血は東洋医学では、「崩漏(ほうろう)」と言います。
崩漏とは、不規則な性器出血のことで、不性器出血に相当します。
<崩漏>
東洋医学の古い医学書<諸病源候論・婦人雑病諸候>に「血は時にあらずしてあらずして下り、淋瀝して断えざるは、これ漏下という」「忽然として崩下するは、これを崩中という」とあるように、「崩」と「漏」の症状は異なるけども、病因は同じであり、病理機序の過程で相互に転化し、崩が緩徐になれば漏になり、漏が続いて止まらなければ崩となる、とあります。
出血の出方や量によって名前は異なるということですが、本症は出血が多かったり少なかったり一定しないために、崩と漏を画然と区別することも困難であり,一般には「崩漏」と統称します。
不正出血は、以下の4分類に分かれます。
①腎陰虚
多量の不正性器出血あるいは持続性の性器出血で、出血が鮮紅あるいは紫紅を呈し、粘稠で、ときに凝血塊を混え、腰や膝がだるく無力・頭のふらつき・耳鳴・五心煩熱・口乾して飲みたくない・舌質が紅あるいは淡(血虚のとき)・脈が細数などをともなう。
②腎陽虚
多量の不正性器出血あるいは持続性の性器出血で、出血が淡紅で稀薄であり凝血塊を混えず、顔面の黄褐色の斑点・寒がる・四肢の冷え・肥満傾向・腰痛・舌体が胖で淡あるいは歯痕がある・脈が沈弱あるいは虚数(血虚のとき)などを呈する。
③脾気虚
多量の不正性器出血あるいは持続性の性器出血で、出血が淡色で稀薄であり、顔のむく み・元気がない・食欲不振・下腹部の下墜感・泥状便・舌質が淡・脈が細弱あるいは虚数(血虚のとき)などを呈する。
④血瘀
多量の不正性器出血あるいは持統性の性器出血で、出血が紫暗を呈し、凝血塊を混じ、下腹部の疼痛と圧痛があり、凝血塊が排出すると疼痛が軽減し、舌質が紫暗あるいは瘀点がある・脈が沈渋あるいは弦滑(血虚あるいは血瘀化熱のとき)などをともなう。
出血が持続したり慢性に経過し、弁証用薬によって無効な場合には、血瘀の症候がみられなくても血瘀を考慮すべき。
本症例の診断名は、腎虚(陰>陽)でした。
上記分類の①②の間くらいで、両方まざっているような状態とみて、左足の腎臓のツボに鍼治療を行いました。
今回の症例は、症状が発症して間もない時期に鍼治療をできたことが、早期改善に向かったと思われます。











