コ◯ナ感染後の嗅覚・味覚障害の1症例
熊本市で東洋医学専門の鍼灸治療を行う当院では、内科的な不調や自律神経の乱れなど、原因がはっきりしない症状にも対応しています。 このページでは、実際に来院された方の症例と、その診察・施術の流れをご紹介しています。同じようなお悩みをお持ちの方の参考になれば幸いです。
初診日:X年10月8日

患者さん情報
50代女性 医療系大学の看護師パート勤務
服用中のお薬
エゼチミブ(高脂血症)
点眼薬(緑内障)
セフジトレン
カルボシステイン
メチコバール
アンブロキソール
SPトローチ
お悩みの症状
味覚・嗅覚がない。
喉の奥の痰が切れず苦しい
不眠
10月19日に発熱し、コ◯ナ陽性と診断。微熱が数日続いたのち、21日には解熱。自宅療養期間も解除されたため、23日に仕事へ復帰した頃から鼻水が出始め、嗅覚が急激に消失。味覚も塩味以外が分かりにくくなる。
来院前日には鼻水そのものは止まっているが、喉の奥に痰・鼻水が溜まっているような違和感が残存。鼻をすすると、粘稠性の鼻水が喉の上部へ落ちてくる感覚が続く。耳鼻科を受診し、「コ◯ナ感染後の副鼻腔炎の可能性があるため経過観察」と説明を受け、ビタミン剤、セフジトレン、カルボシステイン、メチコバールを5日分処方されている。
来院前日から内服を開始。本日も耳鼻科を再受診し、「アンブロキソール」「SPトローチ(ローチ)」が追加処方されている。
現在は、喉に痰が絡む感覚や後鼻漏のため夜間眠れない状況が続き、加えて体内に熱がこもるような感覚があり、動くと発汗がみられる。

既往歴〜現病歴
幼少期:大病なく、屋外で活発に過ごす
小学校:バスケット部。練習はハードだが睡眠で疲労回復
中学校:ソフトテニス部。肥満傾向。油物・甘菓子の摂取が多い
30歳・33歳(出産):毎月のように乳腺炎を繰り返し発熱。めまい・吐き気・食欲低下・体重10kg減
40歳:緑内障疑いで点眼治療開始
45歳:高脂血症を指摘
50歳:夜間尿出現
52歳:寝つき・寝起きの悪化
55歳(初診3週間前):コ◯ナ感染
初診1週間前〜:味覚・嗅覚障害
初診前日まで:鼻水あり→改善。しかし後鼻漏が持続し、喉奥に痰が溜まる感覚
その他の症状
頭がいたい
首肩背中がこる
アレルギーがある
あくびがでる
痰がきれにくい
のどがつまる
目の症状【乾燥・疲れ・かすみ・光がまぶしい】
悩み・心配事がある
眠れない
食欲がない
よく便秘になる
冷え性
のぼせる
疲れを感じる
患者さんの体表観察情報

顔面気色診
神:栄
形:中
色:肝赤黒 脾青
腠理:密 膏沢:有り

背候診
左心兪虚中実、左肝兪虚中実・右肝実・右胆兪実・筋縮〜霊台まで圧痛ありなど

舌診
舌色:淡白舌
舌苔:白薄苔
舌腹:紅色
舌尖紅刺 胖嫩 歯痕

腹診
以下に硬い邪あり
沈(右脾募〜右肺先)
胃土

脈診
一息三至半 緩滑枯脈
両寸口枯
脈幅+
脈力+
重按±
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経穴診
左太衝実・右太衝虚中実・右太淵実・右豊隆実・右三陰交実・左照海虚
東洋医学的な診断名
熱邪犯肺
治療経過
<1診目>
右不容・・3番鍼で15分置き針
<2診目>
だるさ・眠気はなかった。
寝汗がよく出るようになった。
症状に大きな変化はないが、寒くなったり、暑くなったりする。(寒熱往来) )
左後渓・・2番鍼で15分置き針
<3診目>
鼻水・痰が喉にへばりついて、2時間しか眠れなていない。
口が渇く。
嗅覚がオレンジ系の匂いはわかるようになった。
右後渓(手のツボ)・・2番鍼で15分置き針
<4診目>
前回施術後の夜からかなり調子が良くなり、眠れた。
翌朝、味覚と嗅覚が完全に戻っていた。
コ◯ナ後から今まで、山登りをするとのぼせ症状があったが、のぼせもなくなった。
右後渓(手のツボ)・・2番鍼で20分置き針
<まとめ>
本症例は、西洋医学のお薬を併用しながらの治療であったため、鍼治療による効果を単独で説明することは困難です。しかし、特に3診目の施術後に劇的な改善がみられた点を踏まえると、鍼治療が変化に寄与した可能性は十分に考えられます。
近年、コ◯ナ感染後に「嗅覚障害」や「味覚障害」を訴える患者さんは非常に多く、当院にも多く来院されています。東洋医学では、こうした匂いや味などの感覚は**「肺の機能」**が司ると考えます。
本症例では、コ◯ナ罹患により体内に熱がこもり、その残熱が肺を犯した結果、嗅覚・味覚の障害が遷延したと推測されます。また、この残熱によって、のぼせなどの症状が出現したものと考えられます。
その根拠として、肺の代表的なツボである太淵(たいえん)に熱がこもった硬結反応がみられました。そこで、この反応を除くことを主眼に治療を行いました。
3診目以降は太淵の反応が著しく改善しており、3診で用いた後渓(こうけい)というツボが上半身の熱を抜く作用をもつことから、上に滞った熱を適切に逃がすことができた結果、症状改善につながったと考察しています。











