慢性前立腺炎とは?症状・原因・東洋医学による鍼灸治療について

慢性前立腺炎は、男性の骨盤内や会陰部(陰嚢と肛門の間)に痛みや不快感が生じる疾患です。
排尿時の痛みや違和感、頻尿、残尿感、射精時の痛みなど、症状は多岐にわたり、日常生活に大きな支障をきたすこともあります。
また、泌尿器科で検査を受けても明らかな異常が見つからず、薬を服用しても症状がなかなか改善しないケースも少なくありません。
今回は、慢性前立腺炎の症状や原因、西洋医学的な治療、そして東洋医学による鍼灸治療について詳しく解説します。
慢性前立腺炎とは
前立腺は、膀胱のすぐ下に位置し、尿道を取り囲むように存在する男性特有の臓器です。精液の一部を構成する前立腺液を分泌する働きがあります。
慢性前立腺炎は、一般的に3ヶ月以上続く骨盤内の痛みや不快感を特徴とする疾患群です。
特に、慢性前立腺炎と診断される方の多くは、細菌感染が確認されない「慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群(CP/CPPS)」に分類されます。
このタイプでは、必ずしも前立腺そのものに明らかな炎症が存在するわけではなく、骨盤底筋の緊張や神経系の過敏性、心理的ストレスなど、複数の要因が関与していると考えられています。
慢性前立腺炎の主な症状
慢性前立腺炎では、次のような症状がみられます。
会陰部(陰嚢と肛門の間)の痛みや不快感
下腹部や鼠径部、陰茎、精巣周辺の痛み
排尿時の痛みやしみるような違和感
頻尿、残尿感、尿の勢いの低下
射精時や射精後の痛み
長時間座っていることで悪化する痛み
夜間頻尿や睡眠の質の低下
これらの症状は常に一定とは限らず、日によって強弱が変化することも特徴です。
また、痛みが続くことによって精神的な負担が大きくなり、不安感や睡眠障害を伴う場合もあります。
慢性前立腺炎の原因
慢性前立腺炎の原因は、現在でも完全には解明されていません。
細菌感染による慢性細菌性前立腺炎も存在しますが、慢性骨盤痛症候群では、以下のような要因が複雑に関与していると考えられています。
① 骨盤底筋の過緊張
骨盤底筋は、排尿や排便、性機能などに関わる筋肉です。
長時間の座位や筋肉の緊張などが骨盤内の痛みに関係することがあり、骨盤底筋の過緊張が症状を持続させる一因となる場合があります。
② 神経系の過敏性
痛みが長期間続くことで、痛みを伝える神経系が過敏になり、通常では痛みを感じにくい刺激に対しても、不快感や痛みが生じることがあります。
③ 精神的ストレス
精神的なストレスや不安は、自律神経系や筋肉の緊張、痛みの感じ方に影響を与えることがあります。
そのため、仕事上のストレスや生活環境の変化などが、症状の増悪に関与するケースもあります。
④ その他の要因
外傷、局所の炎症、免疫反応などが関係している可能性も指摘されています。
ただし、原因や悪化要因は患者さんによって異なるため、すべての慢性前立腺炎を一つの原因で説明することはできません。
西洋医学における治療

泌尿器科では、症状や検査結果に応じて治療が行われます。
細菌感染が確認された場合には抗菌薬が使用されますが、細菌感染が認められない慢性骨盤痛症候群では、必ずしも抗菌薬が有効とは限りません。
また、症状に応じてセルニルトンなどの薬剤や、排尿症状に対するα1遮断薬、鎮痛薬などが用いられることがあります。
その他にも、骨盤底筋に対する理学療法や生活習慣の調整など、複数の方法を組み合わせて治療することがあります。
東洋医学では慢性前立腺炎をどう考えるのか

東洋医学では、慢性前立腺炎という病名だけで治療方針を決定することはありません。
排尿時の痛みや違和感、会陰部痛、頻尿などの症状を、古典的な病証である「淋証(りんしょう)」「尿痛」などと関連づけて考えることがあります。
淋証には、熱淋・気淋・血淋・石淋・膏淋・労淋などの分類があり、それぞれ病因病理が異なります。
慢性前立腺炎においても、主に以下のような病態が考えられます。
① 膀胱湿熱(ぼうこうしつねつ)
湿熱とは、身体の中に停滞した湿と熱が結びついた状態を指します。
東洋医学では、湿熱が下焦(身体の下部)に停滞することで、排尿時の灼熱感や痛み、頻尿、尿の濁りなどが現れると考えます。
② 腎虚(じんきょ)や腎陰虚
東洋医学における腎は、生殖機能や水液代謝、生命活動の根本に深く関わる臓腑です。
腎の働きが衰えることで、排尿機能の失調や腰部のだるさ、疲労感などが現れると考えます。
特に慢性化した病態では、腎虚が背景に存在する場合があります。
陰虚が進めば、尿の色は濃くなり、口の渇き・会陰部の灼熱感・手足の火照りなどの症状が出てくる場合があります。
③ 肝鬱気滞(かんうつきたい)
肝は、全身の気の巡りを調節する働きを担っています。
精神的なストレスなどによって肝の疏泄作用が失調すると、気の巡りが滞り、下腹部や会陰部の張り、痛み、排尿時の違和感などが生じると考えます。
また、ストレスによって症状が増悪する場合には、肝鬱の関与を検討することがあります。
④ 瘀血(おけつ)
瘀血とは、血の巡りが滞った状態を指します。
慢性的な病態や外傷などによって気血の流れが阻害されると、局所に瘀血が形成され、痛みが持続する場合があると考えます。
特に、長期間にわたる会陰部痛や、局所に固定した痛みがある場合などには、瘀血の関与を検討します。
⑤ 心神の失調
慢性的な痛みによる精神的負担や、睡眠障害、不安などが強い場合には、心神の失調が関与していることもあります。
東洋医学では心と身体を切り離さず、心身一如の観点から病態を捉えます。
そのため、局所の痛みだけでなく、精神状態や睡眠、全身の気血の状態なども含めて診察することが重要です。
慢性前立腺炎に対する鍼灸治療

当院では、慢性前立腺炎に対して、会陰部や前立腺周辺だけを治療するのではなく、身体全体の状態を詳しく診察します。
具体的には、発症までの経過、生活習慣、飲食、睡眠、精神状態、排尿や排便の状態などを確認し、脈診・舌診・腹診・背候診などの東洋医学的な診察を行います。
そして、患者さん一人ひとりの病因病理を考察し、必要なツボを選択します。
当院では、一本鍼を中心とした少数鍼による治療を行っており、多くのツボに鍼を刺すのではなく、身体の状態に応じて少ない刺激で全身の気血の調整を図ります。
慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群に対する鍼治療については、臨床研究において痛みや排尿症状の改善が報告されています。ただし、治療効果には個人差があり、細菌感染などに対する泌尿器科での診断・治療も重要です。
当院における慢性前立腺炎の改善症例
慢性前立腺炎と診断され、服薬治療を続けるも症状が十分に改善せず、当院を受診された40代男性の症例です。
この患者さんは、会陰部の痛みや排尿時の違和感、射精時痛などに悩まされていました。
当院では、東洋医学的な診察を行ったうえで、左臀部のツボに1本の鍼を行いました。
その結果、初回治療から4日後の再診時には、会陰部痛がNRS3から1程度まで軽減し、排尿時の違和感や射精時痛、尿勢にも改善がみられました。また、夜間に尿意で目が覚めることもなくなったとのことでした。
このように、当院では局所の症状だけでなく、身体全体の状態を捉え、一人ひとりの病態に合わせた治療を行っています。
日常生活で気をつけたいこと

慢性前立腺炎では、日常生活の過ごし方も重要です。
特に、長時間の座位、過度なストレス、睡眠不足などは、人によって症状を悪化させる要因となることがあります。
また、飲酒や刺激物などによって症状が強くなる方もいるため、自身の症状と生活習慣との関係を把握することが大切です。
東洋医学では、飲食の不摂生や過労、精神的な負担などが、脾・腎・肝・心といった臓腑の失調につながると考えます。
そのため、当院では鍼灸治療に加えて、個々の体質や病態に合わせた生活指導も行っています。
まとめ
慢性前立腺炎は、会陰部痛や排尿時の違和感、頻尿、射精時痛など、多様な症状を引き起こす疾患です。
特に慢性骨盤痛症候群では、原因が一つに限定されず、症状が長期間続いたり、良くなったり悪くなったりを繰り返すことがあります。
東洋医学では、こうした症状を単に前立腺の問題として捉えるのではなく、身体全体の気血や臓腑の失調、病の所在や病勢などを総合的に考察します。
熊本市の鍼灸 渓風院では、東洋医学に基づいた診察を行い、一人ひとりの病態に合わせた一本鍼・少数鍼による治療を行っています。
慢性前立腺炎による会陰部痛や排尿時の違和感などでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。








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